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いつもの日々を楽しもう

わたかぜの忘備録。映画、アニメ、小説などの感想をメインに

くそったれな幻想世界―― 『CHAOS;CHILD』(カオスチャイルド) 感想 TRUEルート

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妄想科学ADV「CHAOS;CHILD」Official Website

 

現在アニメ放送中のカオスチャイルド。妄想科学アドベンチャーシリーズの第4作目です。
原作がセール中で2000円。安さに釣られやり始めたらめちゃくちゃハマってしまい、ずっとやってました。シリーズの中でプレイしたのはシュタゲだけですが、カオスヘッドはアニメの方を見てたので今作の世界観はちょっと懐かしかったです。ipadiPhoneだと好きな体勢でプレイできていいですね。以下感想。ネタバレ注意。

 

 

尾上世莉架

「私から、"目的"を奪わないで!
生まれてから、いろんな人の心を読んできた!みんな悩んで、迷ってる。
それでも生きてるのが信じられない!
なんで笑ったりできるのっ?それが何のためか、自分でわかってないのに!」

―over sky end 11章

尾上世莉架は宮代拓留のイマジナリーフレンド。彼女の至上目的は拓留にやりたい事を与え、それを叶えさせること。その為に現実の世界に生み出された。

世莉架は拓留を肯定する為の存在。年下でアホっぽいのも拓留が"情強"なのを肯定するため。だから決して彼を否定するようなことはしない。

over sky end√終盤の彼女や誕生した理由だけ見てるとロボットみたいだが、彼女にもちゃんと人としての感情は存在する。その感情が爆発したのが上記の台詞。

TRUE√を終えた後だとさらに見方が変わる。彼女はカオスチャイルド症候群に罹っていなかった。そんな中で過ごしていた彼女の心情を想像できる屈指の名場面。

 

宮代拓留が情強にこだわる理由
そもそも情強、情弱とは何なのか。ある情報が本当に正しいかどうかは関係なく自分が望む情報だけを信じるのが情弱。情強とは常に正しい情報を追い求める存在。

拓留が情強であるのに拘り始めた原因は幼少期にある。親からネグレクトされており、強い孤独や劣等感を抱えていた。イマジナリーフレンドに傾倒していたのもそのせい。自分を愛してくれる、肯定してくれる存在に飢えていたのだ。そこで、周りの子供達と違って両親に愛されていないのは自分が"特別"だからと思い込む事で現実を乗り切ろうとした。辛い現実を受け止めきれなかった。だから拓留は自分が"特別"であることに異常に拘る。その"特別"である身近な存在が"情強"だったのだろう。

 

ニュージェネの再来事件の犯人が世莉架だったのを知った時の衝撃たるや。
拓留は自分が情強であるとずっと思い込んでいたが、いつも身近にいた幼馴染が何を考え、何を思っていたのかさえ全く分かっていなかった事実に打ちのめされる。彼女の言動は全て自分の願いに基づいた物で、彼女は全て拓留の為だけに行動していた。結衣が死んだのも乃々が死んだのも大元の原因は自分。拓留は自分が願った事を忘れ、世莉架を表面上の言動のみで判断していた自分の愚かさを知る。そして自分が情弱であったことに気付きそれを受け入れた。
だからカオスチャイルド症候群から帰還できた。

 

劣等感を持っているがそれを受け入れられず、自分は特別だと思い込む。自分は優れていると思い込み幻想の世界を作り上げる。そんな事をしても現実世界の自分は何も変わらないというのに。
拓留の作る幻想世界は極端だったが、大なり小なり自分に都合の良い幻想世界を作る経験は多くの人が持っているのではないだろうか。だからこそ拓留と世莉架の別れは悲しいが、尊く希望を感じる清々しい物になったのだ。

 

・雑感。

over sky endのラストについて。世莉架は”普通の幼馴染”として拓留に再構成され、カオスチャイルド症候群から帰還した拓留と逃避行。Happy End。TRUE√のラストと真逆なEND。というのが私の解釈なんですが、これだと警察の警備をどうやって突破したかがわからないんですよね。二人とも能力がない筈なのに。

それにしても事件の真犯人や、カオスチャイルド症候群の真実など二転三転するシナリオすごく楽しめました。同じようなゲームだとナツユメナギサやリトバスがありますけどあれらに匹敵する面白さでした。

ノベルゲーってアニメや映画、小説と違って掛ける時間が数倍以上なので、作品に対するのめり込み度合いもその分深くなってすごい面白い。しばらくはカオスチャイルドロス症候群のまま過ごすことになりそうです。

響け!ユーフォニアム2 第11話 「はつこいトランペット」 感想 麗奈の力強さ

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9話で滝先生の机に置いてある写真から終に奥さんの存在に気付いてしまった麗奈。

今回は麗奈の初恋が終わってしまうお話です。

一応9話から伏線が張ってあったとはいえ、30分で失恋から立ち直った麗奈の力強さには憧れます。

麗奈の揺れ動く瞳が何度も出てきて印象的な回でした。

 

・悲嘆(mourning)の4段階

人は愛する対象(家族や恋人、友人など)の喪失に直面した時、深い悲しみに襲われます。喪失とは死や生き別れの事です。もちろん失恋も。精神分析学者のジョン・ボウルビィはその時の心的プロセスを4段階に分けて説明しています。

[ジョン・ボウルビィ(John Bowlby,1907-1990)のモーニング(喪)の四段階論と対象喪失の受容と回復]: Keyword Project+Psychology:心理学事典のブログ

簡単に言うと、

① 混乱、否認

② 怒り、執着

③ 絶望、抑うつ

④ 再建、離脱

の4段階となっています。数字順に気持ちが変化していく。

11話はこの4段階を綺麗にまとめています。

 

・大吉山再び

新世界より」を吹いた時以来の麗奈の絶叫。抑えきれない気持ちを受け止めるのはやはり久美子の役割です。

夏祭りの時は連星が輝いてましたが今回は満月。麗奈が一人で悲しんでいたのが伝わってきます。

この1期を彷彿とさせる演出、久美子と麗奈が春からずっと一緒に過ごしてきたの感じさせます。最後の久美子の腕時計はその時間の象徴。

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”怒り”という感情は理屈ではなかなか説明できない事もあるとても人間らしい感情です。

 麗奈は怒っていましたが、それがちゃんと自分勝手なものだと分かっていました。けれども自分ではどうしようもなかった。

だから久美子が傷つけたくなかったからと言った時、麗奈は知ってたと返します。

久しぶりの会話。

久美子は麗奈が傷付いてたのを知り、麗奈は自分の動揺や不安を素直に久美子に語っていきます。

麗奈は山頂でこう語っていました。

私さ、自分の弱さにびっくりした。

奥さんが居たって聞いたとき、ヤバいくらい動揺して。

私、何で気付けなかったんだろう。

お母さんにも何で今まで何も教えてくれなかったのって八つ当たりして。

彼女は奥さんの話を聞いた後、混乱してそれが母や久美子への怒りに変わって行ったのです。そして大吉山での久美子とのやり取りは怒りから絶望、抑うつへと至る過程となります。

 

・集中できない麗奈

過去の思い出に浸っていた麗奈を引き戻すのは滝先生が手をたたく音。ここでも時計やメトロノームと言った時間(過去)を感じさせる物が出てきます。今回は時間が一つのキーポイントです。

 

あれだけ完璧な麗奈が演奏に集中できていない。彼女は自分の気持ちにまだ整理がつかず、落ち込んでいるのです。絶望とまでは行ってないと思いますが、軽いうつ状態です。

優子先輩が心配して声をかけますが、悩みを打ち明けることはない。麗奈が本音を打ち明けるのは久美子だけ。

 

・滝先生とのやりとり

ここから再建段階へシフトしていきます。

 

この状態を脱するには奥さんを受け入れるしかない。

そのためには奥さんがどんな人物だったのかを知らなければならない。麗奈は傷つくのを承知で滝先生に直接聞きに行きます。滝先生の奥さんの事をとても懐かしそうに話す様子から、今でも彼の中では奥さんが大切な存在として”生き続けている”のが分かります。彼が奥さんの事について何か話す度、あの橋の上の時と同じ腕時計が視界に入る度、麗奈は傷ついたでしょう。

 

立ち直るために一度それまでの自分の思いを全部壊して、一から作り上げていく。とても麗奈らしいまっすぐなやり方。

 

・お墓参り

気持ちの整理がついた麗奈はとうとう滝先生の奥さんのお墓参りをします。

お墓参りは勿論奥さんに会いに行く為ですが、これまでの自分との別れを象徴するシーンでもあります。

新山先生から無理言って聞き出してくる行動力。つくづく麗奈らしい。

私、前から思ってたの。

どうしてもっと早く生まれてこなかったんだろうって。

私だけ時間が進むのが早ければいいのにって。

早く大人になって滝先生に追いつけばいいのにって。

時間は皆平等に与えられる。一人だけ早く進める事なんてできない。それも表すためのあの腕時計だったんでしょうね。

 

雲は晴れ、朝日が差し込む。

初恋は終わり、ここから麗奈の新しい曲が始まるのです。

 

・雑感

小学生の麗奈可愛いいいいいいいい。帽子をちゃんとかぶってるのが育ちの良さを感じさせてgood!まさかここまで遡ってくれると思ってなかったから超嬉しかったです。

あすかが成長してるのも見られたし、優子の優しさもしっかり見れて良い回でした。

「この世のすべての不利益は当人の能力不足」 この言葉の魅力と欠点

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『東京喰種』のヤモリの言葉です。この言葉は、7巻でヤモリが主人公を監禁している時に出てきます。第2部の:reでも今度は琲世から同じ台詞が出てきます。ヤモリは自分の拷問経験からこのことを学びました。

残酷だけどかっこいい魅力的な言葉です。

 

・喰種の世界

このマンガを読んでる人は知ってると思うんで飛ばしてもらって大丈夫です。

 

東京喰種の世界では人間を餌にしている喰種と呼ばれる怪人が存在しています。彼らは人肉しか食べない。

喰種は姿形は人間そっくりなのですが、赫子と呼ばれる捕食器官がありこれを使って人間を殺します。基本的に目が赤いです。また筋力は普通の人間の数倍以上。肌も硬いし俊敏性も人間を超えています。銃を持った人間でも余裕で殺せます。

しかし喰種は人間の数に比べとても少ないです。なので喰種ということがバレると、CCGという喰種討伐集団にリンチされ殺されてしまいます。人間は捕食対象でありながら敵なのです。

喰種同士では基本仲が悪い。身内以外は敵といった感じです。彼らは自分の狩場を持っていて、基本的に食事もその狩場の中だけで行います。これは餌の奪い合い(殺し合い)といった無駄な争いを避けるためでしょう。人間にバレたらCCGに殺されますし。また共食いする喰種もいるため仲が悪いのは仕方ないでしょう。

 

 

 なので喰種の世界は弱肉強食の世界です。仲間同士での餌の取り合い、人間との殺し合い。戦闘力の高いものが生き残りやすい世界。

 

・頼れるのは自分のみ

そんな世界で頼れるのは誰でしょう?知らない奴は全部敵、信じられるのは身内のみ。家族がいても大抵は人間に襲われ離散している喰種が多い。長く同じ仲間と居られる世界ではないです。結局どんな時でも頼れるのは自分だけ。

 

喰種の世界は人間の世界と違って"社会"が存在しません。弱者は堕ちるとこまで堕ちて行き最後には死ぬ。生活保護がある日本とは全然違います。

逆に強者なら何でもできる。基本的に戦闘力さえあればOKな世界なので、自分の思うがままに出来ます。学校なんて行く必要が無いし金なんていらない世界。

 

故に喰種の世界での不利益は「すべて」当人の能力不足から来るのです。なんでも自己責任の社会。

1部の第7巻でこの真理を受け入れ、これまでの自分の考えを捨てる覚悟を決めた金木研は覚醒します。

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・では人間の世界ではどうか?

人間の世界でもこれは大体あっています。

しかしこれは強者のための言葉です。

 

頑張って自分を成長させたら報われますよと。

また強い人がこの台詞を言うと、自分の能力に裏打ちされた絶対的な自信が滲み出て凄いかっこいい。魅力的な台詞になります。自分も強者になって言ってみたい。そう思わせられる言葉です。

 

けれども世の中には頑張ってもあるレベル以上には成長できない人が大勢います。

そんな人たちにはこの言葉は無意味です。

何しろ能力を上げられない以上不利益をどうすることもできないのですから。強者と異なり不利益な状況は何も変わりません。

 

能力のないものは不利益を受け入れろ。そういう何でも自己責任の社会はよくありません。良くはないけど間違いでは無いからタチが悪い。

自己責任感が強い人は、何かあった時に悪いのは自分だと思いこみます。自分を責めることはいわば自分の否定。それは強いストレスになります。

強いストレスに長時間かけられ続けると、人は無気力になってしまうそうです。脳内の神経伝達物質が減少してしまうからと考えられています。

そうしてうつ病を発症してしまうこともある。

だから精神が弱い人にも向いてない社会です。

 

自己責任の社会は強者にとっては素晴らしい社会です。しかし能力が低かったり、精神が弱い人には生きづらい社会なのです。

東京喰種の世界はこの考え方で一貫していて非常に冷たく尖った世界になっています。中二病的な世界観が好きな人には是非とも読んでほしい作品です。

アニメがあるのでそっちから入ってみてもいいかも。

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響け!ユーフォニアム2 第10話 「ほうかごオブリガート」 感想 本音と建前

あすか先輩が遂に部活に戻ってきました!麻美子さんの問題も解決し、やっとひと段落して落ち着いたのを感じています。EDのヴィヴァーチェが染みる染みる。

6話から始まり10話まで、とても楽しい1ヶ月でした。

 

前回9話ではあすか先輩は久美子を家に招き、自分の家の事を打ち明けました。

久美子はそれでもあすか先輩が好きだといい、あすか先輩は救われたのです。

 

そして10話ほうかごオブリガート

久美子を家に呼びましたが、依然として部活を辞めるという心は変わりませんでした。

オブリガートは演奏上不可欠な助奏の事で、台所での麻美子とのやりとりを指しています。あすか先輩という主旋律に対して久美子が本音をぶちまけられたのは麻美子との会話があったからなのです。「後悔のないようにね」という姉の言葉が久美子を後押ししました。

 

麻美子が家から出て行くのを久美子は寂しいと思っているのに、素直になれず本人の前で寂しいと言えませんでした。

高校生の時に親に対して変に大人ぶって素直になれなかった麻美子。変に大人ぶって寂しいと言えなかった久美子。本当は全国に行きたいのに変に大人ぶって部活を辞めようとするあすか先輩。

 

みんな高校生でまだ子供なのに変に大人ぶって、本音を我慢して、自分を押し殺す。後悔するのが薄々分かっているのに。

高校生ってこういう物ですよね。大人と子供の中間。

電車で突然泣き出すシーンはそれが凝縮されていました。

 

今回は久美子の成長物語。麻美子の事で後悔した経験はあすか先輩の時に活かされます。

 あすか先輩はなぜあれほど部活を辞めようとしたのでしょうか?

 

 ・本音と建前

人を信じるって難しい。

本音だと思っていたのが建前だったのを知ったら人は傷つく。傷つくのなんて誰もが嫌だ。

しかし他人になる事なんて不可能なんだから、他人の心なんて分かるわけがありません。確かにその人の性格や境遇をある程度知っていたり、付き合いが長かったら想像できますが、悪魔で"想像"です。経験はできない。付き合いが浅い人の心なんて、もし「自分が」その人の立場になったらどう思うかでしか考えられません。

だから他人の言っている事が本音かどうかなんて分かるわけがない。本音と建前が紛らわしい時なんて尚更です。

 

だから周りとの折り合いを付けるのに1番楽なのは、自分を押し殺す事。本音を隠して周りの意見に合わせたり、聞こえの良い意見を言ったり。周りと同じ建前を言っているのが1番楽です。「あすか先輩が部に戻ってきて来て欲しい」それが部内での空気。

 

それ故にその「戻って来て欲しい」という言葉が本当かどうかなんてのはわからないです。部活に戻りたければその言葉を信じるしかありません。たとえそれが周囲との摩擦を生むことになるのだとしても。それは心が強い人じゃないとなかなか出来ません。精神的な消耗も激しい。いろいろな経験をし、大人になるにつれてだんだんそんな冒険はしなくなっていく。誰だって無駄な衝突は避けたい。だから人を信じるのは難しい。

 

「みんな?みんなって誰?

だいたい、そのみんなが本心を言ってる保証はどこにあるの?

『あすか先輩が出た方がいい。』『あすか先輩と吹きたい』

そりゃみんなそう言うよ。だってそう言っとけば誰も傷つかない。」

 

あすか先輩は賢いからこの事を分かっている。自分が部に戻らないのが1番丸く収まると。

分かっているあすか先輩はそれを無視して我を押し通す事ができるほど強くはなかった。心が強くないのです。だから気持ちを押し殺して、自分が傷つかないよう振る舞う。自分が他の部員の立場だったら絶対嫌だ、部の為にならないと言った外的要因を建前に吹部を辞めようとします。

 

心の弱さがこの建前を生み出しています。

 

・心が強い人、弱い人

心の強弱の視点で他の登場人物を見てみましょう。

 

麗奈は心が強い人です。

心が強い人は他人から悪く言われて何とも思いません。確固たる自分を持っているから。少しは揺らぐことはありますが、基本的に悪口くらいじゃあ止まらない。

1期でのオーディションの時の彼女は強かった。自分の技術、そして考えに自信を持っていた。自分こそが正しいと。久美子の支えもあったと思いますが、自分を貫き通せたのは間違いなく彼女自身の強さです。

 

対して久美子は心が弱い人です。

1期の序盤、滝先生が部活の方針を決める為、全国を目指すか、それとも楽しくやるかで手を挙げさせるシーンがあります。

その時久美子はどちらにも手を挙げませんでした。自分の意見を示そうとしない。周りから自分がどう思われるのかをとても気にしているのが分かります。

また彼女は中学時代、先輩を差し置いて合奏メンバーに選ばれ、キツイ悪口を言われました。その事がトラウマになっているせいか、1期の時の夏紀とのやりとりはそれはもうおっかなびっくりと言った感じでした。

 

久美子とあすか先輩はこの心が弱い点でよく似ています。

 

 

久美子とあすか

久美子が北宇治に進学した理由は中学時代の知り合いが誰もいない所で一から始めたかったからです。それは、周りに流される自分を変えたいと思う気持ちがどこかにあったからなのではないでしょうか?

久美子は麗奈と出会うことで変わっていきます。低音パートの仲間にも恵まれどんどん自分を出せるようになっていきます。

 みぞれの時もそうです。中学時代の久美子じゃあそこまで頑張れなかったでしょう。

 

けれど肝心な所で踏み込めなかった。傍観者になってしまった。

「気になって近づく癖に、傷つくのも傷つけるのも怖いからなあなあにして、安全な場所から見守る。そんな人間に相手が本音を見せてくれてると思う?」

同じく他人に踏み込めないあすか先輩にはしっかり見抜かれていました。あすか先輩と久美子はこういう所で似た者同士です。

久美子は止まってしまう。このままでは今までの自分と同じ。

「まああんたもさ、後悔のないようにしなさいよ」

フラッシュバックした麻美子のこの一声が最後の後押しをします。

他人に近づけなかった久美子が境界線を越えた。

だからこそ、心が叫ぶあのシーンがより感動的になるのです。

 

・雑記

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久美子をきつく言いくるめた直後のあすか先輩の緩んだ表情。後輩の久美子を大切に思っている気持ちが伝わってきて好きなカットでした。

 

『やがて君になる』 感想 愛こそが人生で1番大切なもの。互いに依存する素晴らしさ

人生で1番大切なのは愛!

古今東西、愛をテーマにしたお話は沢山あります。寧ろ、愛が存在しない物語などないと言っていいかもしれません。

この世界には、男女の恋愛は勿論、親子愛、師弟愛など色々な関係の愛が存在します。友情も一種の愛です。相手を慈しみ、大切に思う気持ち。それが愛なのです。

 

人は1人では生きられないとよく言いますが、その1番の理由は人は愛を欲する生き物だからです。

人は愛されないと壊れていきます。孤独を感じ、寂しいと思う。そんな状態で生きていけるでしょうか?生きていて楽しいでしょうか?

愛されないと自尊心が低くなる。そんな状態では人を愛する事も出来なくなる。そうして愛を理解できなくなる。

ちっぽけな自分だけの世界に閉じこもって世界を恨む。自分が正しいと叫び、他人の事を考えられなくなる。

愛されることのない人の世界は荒んだものになってしまいます。

 

・「やがて君になる」の作品紹介

それだけ人生にとって大事な恋愛に興味を持ち出す年代は思春期です。

そんな思春期の真っ只中で「愛を理解できない」「誰かを"特別に"好きになれない」自分に不安を感じている女子高生、小糸侑が今作の主人公。

 

女子高生は恋バナが大好き。周りが恋の話で盛り上がっている中、侑は自分だけその気持ちを理解できない孤独を感じています。

 

『やがて君になる』は侑が誰かを"特別に"思うようになる過程を0から丁寧に描いた物語です

七海燈子という先輩から告白された事をきっかけに話が進んで行きます。

今作の特徴として登場人物の心情が物凄くわかりやすい!とても丁寧に描かれてました。
また、男と女という関係ではなく女同士。だからこそ純粋な愛が伝わってくる。
百合なんてよく知らないよ!と言った人にもオススメしたい作品です。

 

現在(2016年12月)は3巻まで出てます。12/9まで1~4話が試し読みできるので興味が湧いた方は是非。

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電撃コミック大賞金賞受賞作家作品『やがて君になる』特設サイト | 月刊コミック電撃大王公式サイト


・恋する気持ちを知らない女の子
主人公は小糸侑は普通の女子高生です。レズビアンではない。

百合なんて理解できないという人と同じ立場です。だから男が読んでも非常に感情移入しやすいし、心情がわかりやすい。

誰も特別に好きになれない。意味は分かるけど誰かを愛したいという気持ちを理解できない。
そんな女の子。

 

・恋してしまった女の子

主人公の相方を務めるのは、彼女と同じように誰も好きになった事がなかった七海燈子先輩。しかし、ある事がきっかけで侑を好きになってしまいます。

 

・"理解する"ということ

あなたは、ある事象について本で読んで知っている状態の事を"理解している"と言っていいと思いますか?

確かにある程度の理解はあると思いますが、それは本当の理解ではないと思います。ただの知識として知っているのと、実際に経験した事があるのは全くの別物です。そこには大きな壁がある。

 

仕事やアルバイトなどを思い浮かべてみてください。上司から説明を受けて理解しているつもりでも、実際にやって見ると上手くいかない。そういう経験は誰にでもあると思います。

 

この物語は恋する気持ちが分からない小糸侑と、そんな侑に恋してしまった七海燈子のお話です。

最初、2人の間には恋する気持ちを知っているかどうかという大きな壁があります。

この壁が崩れていく過程が非常に面白い。

 

依存関係

依存の素晴らしい所は相手がいないと生きて行けない、その相手への愛が非常に大きなウェイトを占めている点です。愛だけがある世界はとても美しい。依存している本人はとても幸せそうです。

愛に飢えている人にとってその世界はまさに理想の世界と言えるでしょう。

 

その依存が一方的なら2人の世界はまだ愛に染まっていません。けれども、もし両者が互いに依存したら、2人の世界は愛だけに包まれたまさに至高の世界になります。

 

愛し、愛される。そんな世界、人生こそが最高。

 

最初は燈子先輩が侑に依存しているだけでした。

少し引いてた侑ですが、燈子先輩と接していくうちに、徐々に彼女の事を大切に思い始めます。そして遂に彼女のそばに居続けるという事を決心します。

逆に言うと"離れられなかった"とも取れます。恋する燈子先輩を遠ざけるほどの意思を持ち合わせていなかったのです。

ここから2人の依存関係は始まります。

 

 

最高の恋愛漫画でした!

続きが気になって仕方がない。

4巻は2017年夏に発売予定。

小説 『屍者の帝国』 感想 複雑化した情報は質量を持つ

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www.kawade.co.jp

伊藤計劃さんと円城塔さんの共著。

伊藤計劃さんが序章を遺し早逝された後、円城塔さんが完成させました。

 

伊藤計劃さんの作品はSFな世界観とその中で論じられる哲学的なテーマが魅力的で好きです。

しかし、正直に言うと今作はごちゃごちゃしていて何がテーマか私には難しくて分かり辛かった。今まで読んだ伊藤計劃作品がいかにシンプルで分かりやすい物なのか実感しました。なので今作は読み終わってもあんまり読了感が無く、モヤモヤした感じが強く残ってしまいました。

 

一応の物語と感想をまとめておきます。間違っている部分があったら指摘して頂ければ助かります。

 

屍者の帝国のテーマ

虐殺器官でのテーマは人間の良心について。またその良心がある状態から虐殺に至る過程を語られていました。言葉や死についてもたくさん出てきました。

 

ハーモニーでは一歩踏み込んで人間の意識について。人間の進化の行き着く先は全てを自明に選択できる状態、すなはち意識の消えた状態であると。それは人間と言えるのか?など語られていました。

 

屍者の帝国の序章では"屍者"という概念の紹介。そして死者と生者の違いである"魂"について。人は死ぬと21グラム減少する事を根拠に動物磁気や霊素という概念を用いて語られます。終盤は魂の2通りの解釈が、ザ・ワンとヘルシングの対立によって描かれます。

 

この「魂」が今作のテーマでした。

良心→意識→魂といい感じに進化してます。

 

・ザ・ワンとヘルシングの賭け

意識や魂はあらゆる生命に存在するか、それとも人間固有のものかという賭け。

 現代に生きている我々はそれは前者が正しいと分かりますが、作中は19世紀。当時の人々には分かりません。しかし屍者に意識はあるのかは我々にとっても謎です。

 

後半は人間と屍者とは別の存在であるザ・ワンが出てきます。ハダリーもザ・ワンと同じような存在。

人間は実は菌株に支配されており、ヘルシングが信じていた人間固有の魂は菌株が見せる夢の様なものだという話が出てきます。なんかひぐらしみたいだな。

霊素はその菌株と人間を繋ぐ言葉だというのです。

そして菌株には屍者化の言葉を受け入れる拡大派と、その言葉を拒否する保守派が存在していると。死んだあとは数が減り、何割かが”屍者化の言葉”によって不死化する。

ここの宿主が死んでも菌株は生きたままで、菌株が屍者化されるとまた動けるようになる原理がよく分かりませんでした。生きてても死んでも派閥の割合は変わらないと思うし。どうやって死んだ脳を再び働かせることができるようになるのかも謎。

 

さて、もし菌株の言葉を完全に理解し、保守派の説得に成功したらどうなるでしょう?

ザ・ワンは拡大派の菌株が保守派を駆逐し、生者が屍者と同じになってしまうと考えました。屍者の帝国。そして全人類が不死化し滅亡する。

ザ・ワンはそんな未来をなくすために拡大派(屍者)の封印を目指す。菌株など信じていないヘルシングは、屍者は必要だと考えそれを阻止しようとする。世界の滅亡がかかった賭けになるのです。


しかしこれはザ・ワンの見解で、納得できないなら菌株はXにして自分の納得するものを入れるといいと言う。ヴァン・ヘルシングはXを言葉と言った。
ここのXが作中では確定しておらず、分かり辛い原因だったように思う。

また円城さんは魂と意識を同じものとして書いていたのでそれも分かり辛かった。意識、魂、夢、全部同じです。

エピローグではフライデーが意識、魂を持っていたことが明かされます。私にとって屈指の感動的なエピローグでした。

賭けはザ・ワンの勝利です。
 

・人間の魂の重さは21グラム

情報が複雑化したらどうなるのか?

この作品の世界では、複雑化したパターン(情報)は質量を生み出します。要するに物質になる。この原理が肝。

 

脳に流れる電流パターンが複雑になった結果生まれたのを魂と呼んでおり、その重さは21グラムです。

 

これは解析機関にも当てはまります。解析機関は霊素の振る舞いをシミュレーションなどに使われる計算機です。フランスの解析機関グラン・ナポレオンは、上述の原理によって複雑な計算パターンが砂になり、解析機関の歯車に挟まってエラーを起こしています。

 

ハダリーはこの砂を"解析機関の夢"と呼んでいました。魂ではなく夢と。機械である自分には魂などないと言っているようにも思えます。

屍者は解析機関を用いて作られた電流パターンにより生まれます。屍者と生者を分かつ"不気味の谷"は解析機関の夢によって生まれました。

 

 

・円環構造

X→人の意識を構成

人→解析機関の意識(夢)を構成

解析機関がXの意識を構成できれば円環を作れる。このループを作ることができれば、どれか1つが誤った選択をしても他の2つを通して正しい選択に戻してやれる。まさに運命共同体となれるのです。

もし人間が屍者化を選んだら解析機関は滅亡してしまう。このループがあれば解析機関はXを操り、人間にその選択を辞めさせることができるのです。

ザ・ワンは解析機関と菌株の言葉を理解し、イギリスの解析機関チャールズ・バベッジを自分の制御下に置くことで、物質を情報化する技術を手に入れます。賭け自体も大事でしたが真の目的は失った伴侶を取り戻すことでした。菌株の結晶を元に伴侶を作ってめでたしめでたしが物語のラスト。

円環は構成されませんでした。

 

・スペクター

スペクターの正体は脳の欠陥です。その欠陥は脳が非常に複雑になったから生まれた物なのです。「複雑でかつ欠陥のないものは存在しない。」という原理に従ったまでの事。これが屍者の暴走を引き起こしました。勝手に生じるものなので止める手立てはまだ見つかっておらず、屍者を全て根絶やしにするのが唯一の方法。

生者の虐殺器官と似ています。

 

・屍者

単一のネクロウェアによって生きている→すべての行動が自明という点でハーモニープログラムを起動した後の人類と同じです。

 

・雑感

過去作との繋がりが感じられて面白かったです。

ただ今回の主人公は葛藤や揺らぎがあまりなく、只の観測者としての印象が強かった。

物語はただ語られるのではなく、適した場所に適した聞き手が必要。納得できないと理解できない。といった人間の理解の仕方の話が結構好きな考え方でした。

響け!ユーフォニアム2 第9話 「ひびけ!ユーフォニアム」 感想 ユーフォっぽい久美子

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前回は久美子の音楽の原点が明らかになりましたが、今回はあすか先輩の原点が明らかになりました。

あすかが久美子にこのような話をする気になったのは久美子が”ユーフォ”っぽかったからです。

 

・「黄前ちゃんらしいね」

夏妃先輩の言葉ですが、これはアニメ1期の5話、帰り道で麗奈が言った「黄前さんらしいね」が元になってます。麗奈は久美子の”らしさ”を気に入ったからこそ彼女と仲良くなっていったのです。

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普通のふりして、どっか見透かされてるような。

気付いてなさそうで、気付いてるような。

そして一番痛いときにポロッと言葉になって出てくる。

「本気で全国行けると思ってたの?」

だからなんか引っかかる。ギュッと捕まえてその皮はがしてやるって。

 久美子は、普段は周りの意見に流されがちで自分からあまり主張することはありません。しかし時々本音をポロッとだす。それは相手が精神状態に関係なく、突然出てくる。だからこそ相手の心にグサッときます。そのギャップが久美子らしい。

 

久美子は好奇心が強いのか、本音が無意識にポロッと出てしまう。だから久美子の本音を聞いた人たちは、普段は猫をかぶっているように見える。ある意味ミステリアス。麗奈はその奥にある本音をもっと知りたくなった。それが上記のセリフに全て表れています。

通常、人は一貫している人より少し揺らぎがある人の方が興味が湧きやすしドラマ性があります。完璧な人より、隙とか迷いとか欠点のある人の方が人間らしいってこと。創作物でそんな主人公が多いのはそういう理由です。

 

好奇心が強く、周りに流されやすいけど本音もしっかり言ってくれる。そんな久美子だからこそ麗奈と仲良くなれたり、オーディション、希美とみぞれ、滝先生の過去、そしてあすか先輩、全ての面倒事に突っ込んで行けたのでしょう

 

あの年齢になって、相手の事情にお構いなく喋るのができるのは結構珍しい存在だと思います。

 

・あすかにとってのユーフォ

彼女がユーフォを始めたのは父の進藤正和の影響。プロのユーフォ奏者であすかの元父。小1の頃ユーフォとノートと手紙が送られてきたのがきっかけです。そこから好きになって行った。

 

彼女の母は離婚の影響かユーフォを嫌っています。また、自分の理想を娘に押し付けるタイプの親でした。そのせいであすかは母の求める娘で居続けなければならず、そんな母にユーフォをやるのを認めさせるには学校でいい成績をとり続けるしかなかった。子供らしく駄々をこねたりするのが許されない家庭環境なのが想像できます。

 

だからあすかにとってユーフォはただの遊びではありませんでした。勉強もユーフォも手を抜かない。真剣にやっていたからこそ他の人のオーディションなんて興味がない。部長をやるのもめんどくさがります。

しかし副部長をやったり、ドラムメジャーをやったりと責任のある立場にはなんだかんだついていて、そのバランスのとり方はとても大人っぽいです。あの母親を一人で支えてきたせいでしょうか。

 

全国大会の審査員を父が務めるのを知って全国を目指そうとしたのは珍しく子供らしい部分でした。

 

・ユーフォっぽい久美子

私は吹奏楽に関しては全くの素人なので以下の記事を参考にさせて頂きました。

なぜ、ユーフォなのか(『響け!ユーフォニアム』感想) - ぼっちの小部屋

 

そんなあすかにとっても久美子はとても惹かれる存在でした。

他人の意見を受け止める余裕があるように見え、相手の痛い時にポロッと本音を出してくれる。相談相手にはもってこいな感じです。

あすかは自分の弱い部分を出しても受け止めてくれると思ったからこそ久美子に話そうという気になったんでしょうね。香織や晴香部長じゃ本音でズバッと切ってくれるような安心感がなかった。

 

部内のどんな面倒事にも突っ込んでいってなんだかんだで解決する所が、ユーフォの吹奏楽の中での「何でも屋」という立ち位置と同じだったからあすか先輩は久美子の事をユーフォっぽいと表現したのでしょう。

あと普段は目立たないけど時々本音をこぼすというのも高音でも低音でもない中低音って感じがしてユーフォらしいです。

 

このことを踏まえるとあすかが自分は全くユーフォっぽくないといったのがわかると思います。

あすかが本音で話せた唯一の友達が久美子だったのです。

そしてそんな自分を好きですと言ってくれる嬉しさは何よりも尊い。

 

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・中世古香織と靴ひも

靴ひもを結ぶシーンがありました。あすか先輩の表情は全く分からず香織先輩の後ろ姿だけが見える。あすか先輩は喜ぶどころかむしろ嫌そうな雰囲気出してましたね。

香織が靴ひもを”縛った”シーンは自分を”縛る”母を連想していやになったのか過保護な母を連想して感じで嫌になったのか。

もしそうなら、あすか先輩のお気に入りの靴は彼女の好きなユーフォを象徴している事になり、あすかは香織をあすかの母と重ねてしまっていることになります。香織先輩あんだけ尽くしているのにそこが仇となるなんて悲しすぎる。。

 

・雑記

「ユーフォっぽい」というセリフは原作にはなく、アニメオリジナルです。

この大事な場面でアニメオリジナルが入ってきて私はとても感動しました。

原作はドライな感じの中に青春要素が詰め込まれていて現実感があって好きですが、アニメはさらにわかりやすく感動青春ものになっていてこちらも毎週楽しんでいます。

ついでに言うと「黄前さんらしいね」も原作にはありません。

1期の「上手くなりたい」と走るシーンもアニメオリジナルだし、ユーフォはオリジナル部分がほんとに凄いです。

 

次は麻美子さんの話かな?一週間後が楽しみです。