「この世のすべての不利益は当人の能力不足」 この言葉の魅力と欠点
『東京喰種』のヤモリの言葉です。この言葉は、7巻でヤモリが主人公を監禁している時に出てきます。第2部の:reでも今度は琲世から同じ台詞が出てきます。ヤモリは自分の拷問経験からこのことを学びました。
残酷だけどかっこいい魅力的な言葉です。
・喰種の世界
このマンガを読んでる人は知ってると思うんで飛ばしてもらって大丈夫です。
東京喰種の世界では人間を餌にしている喰種と呼ばれる怪人が存在しています。彼らは人肉しか食べない。
喰種は姿形は人間そっくりなのですが、赫子と呼ばれる捕食器官がありこれを使って人間を殺します。基本的に目が赤いです。また筋力は普通の人間の数倍以上。肌も硬いし俊敏性も人間を超えています。銃を持った人間でも余裕で殺せます。
しかし喰種は人間の数に比べとても少ないです。なので喰種ということがバレると、CCGという喰種討伐集団にリンチされ殺されてしまいます。人間は捕食対象でありながら敵なのです。
喰種同士では基本仲が悪い。身内以外は敵といった感じです。彼らは自分の狩場を持っていて、基本的に食事もその狩場の中だけで行います。これは餌の奪い合い(殺し合い)といった無駄な争いを避けるためでしょう。人間にバレたらCCGに殺されますし。また共食いする喰種もいるため仲が悪いのは仕方ないでしょう。
なので喰種の世界は弱肉強食の世界です。仲間同士での餌の取り合い、人間との殺し合い。戦闘力の高いものが生き残りやすい世界。
・頼れるのは自分のみ
そんな世界で頼れるのは誰でしょう?知らない奴は全部敵、信じられるのは身内のみ。家族がいても大抵は人間に襲われ離散している喰種が多い。長く同じ仲間と居られる世界ではないです。結局どんな時でも頼れるのは自分だけ。
喰種の世界は人間の世界と違って"社会"が存在しません。弱者は堕ちるとこまで堕ちて行き最後には死ぬ。生活保護がある日本とは全然違います。
逆に強者なら何でもできる。基本的に戦闘力さえあればOKな世界なので、自分の思うがままに出来ます。学校なんて行く必要が無いし金なんていらない世界。
故に喰種の世界での不利益は「すべて」当人の能力不足から来るのです。なんでも自己責任の社会。
1部の第7巻でこの真理を受け入れ、これまでの自分の考えを捨てる覚悟を決めた金木研は覚醒します。
・では人間の世界ではどうか?
人間の世界でもこれは大体あっています。
しかしこれは強者のための言葉です。
頑張って自分を成長させたら報われますよと。
また強い人がこの台詞を言うと、自分の能力に裏打ちされた絶対的な自信が滲み出て凄いかっこいい。魅力的な台詞になります。自分も強者になって言ってみたい。そう思わせられる言葉です。
けれども世の中には頑張ってもあるレベル以上には成長できない人が大勢います。
そんな人たちにはこの言葉は無意味です。
何しろ能力を上げられない以上不利益をどうすることもできないのですから。強者と異なり不利益な状況は何も変わりません。
能力のないものは不利益を受け入れろ。そういう何でも自己責任の社会はよくありません。良くはないけど間違いでは無いからタチが悪い。
自己責任感が強い人は、何かあった時に悪いのは自分だと思いこみます。自分を責めることはいわば自分の否定。それは強いストレスになります。
強いストレスに長時間かけられ続けると、人は無気力になってしまうそうです。脳内の神経伝達物質が減少してしまうからと考えられています。
そうしてうつ病を発症してしまうこともある。
だから精神が弱い人にも向いてない社会です。
自己責任の社会は強者にとっては素晴らしい社会です。しかし能力が低かったり、精神が弱い人には生きづらい社会なのです。
東京喰種の世界はこの考え方で一貫していて非常に冷たく尖った世界になっています。中二病的な世界観が好きな人には是非とも読んでほしい作品です。
アニメがあるのでそっちから入ってみてもいいかも。