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いつもの日々を楽しもう

わたかぜの忘備録。映画、アニメ、小説などの感想をメインに

小説「虐殺器官」感想 人間の持つ"良心"はどこから来たのか

小説

こんにちは。

前の記事に引き続き伊藤計劃さんの小説です。

”ことば”や”死”が一番のテーマだと思いますが、ハーモニーと同じように人の”意識”もテーマにしており、そのテーマに対して独自の解釈で展開されるストーリーはとても面白かったです。

今作はそのようなテーマの中でも道徳観や倫理観といった人の”良心”についてよく語られていました。

 

良心、道徳観、倫理観と聞いたときに私は小学校の時の道徳の授業を思い出しました。命の大切さ、人を思いやる大切さなどを戦争や障害者に関するビデオを見たりしてた気がします。まあ今となってはほとんど覚えておらず、あまり役に立っているようには思えないのですが、こういう事は社会的に”善”とされるということは学べた気がします。

 

ただ、何で善とされるか、善と思うかなんてのは考えもしませんでした。

そこに本作は切り込んでいったのが私にとってはとても新鮮で魅力的でした。

 

・器官

ことばも、ぼくという存在も、生存と適応から生まれた『器官』にすぎない。

本作の重要な考え方の一つです。人間のすべてのものが生存と適応の産物に過ぎず、それは言葉も例外でなく、肝臓や腎臓といった器官と同じであるという考え方です。

そのため思考は言葉より上位に位置すると考えられています。

 

・良心

良心がどのように生まれたか、同じく進化論の考え方を用いてクラヴィスとルツィアの会話中でゲーム理論のシミュレーションを例に説明されています。初期は個体は自分のためにしか動かないが、世代を重ねると目先の利益よりは集団を形成して行動した方がずっと安定性を得られる。そのために利他行為(良心のある行為)をとる個体が出てくると。

良心とは、要するに人間の脳にあるさまざまな価値判断のバランスのことだ。各モジュールが出してくる欲求を調整して、将来にわたるリスクを勘定し、その結果としての最善行動として良心が生まれる。膨大な数の価値判断が衝突し、ぎりぎりに均衡を保つ場所に、『良心と呼ばれる状態』は在るのさ。 ージョン・ポールー

価値判断のぶつかり合い、欲求の調整の結果が良心。これはハーモニーでの意識についての考え方と同じで、良心は”ある意識の状態の一つである”とジョン・ポールは述べています。

 

虐殺器官

言語学者のジョン・ポールは人類の過去の虐殺の資料からある法則性、文法を見つけました。それはどんな国、どんな政治状況、どんな言語であれ共通してあるという、深層の文法です。人間の脳の中にはあらかじめ備わった手持ちの要素を組み合わせて文を生成する機能、すなはち言語を生み出す器官があり、ここから生まれる文法の中に虐殺を予兆させる文法があることを彼は発見したのです。これを発見したジョン・ポールは逆にその文法を使って脳の欲求モジュールを調整して、”良心”のバランス状態を崩壊させ社会を混沌に陥れたのです…

”良心”のディティールは国や文化、究極的には人によって違うけどそれはどうするの?とかこの深層の文法が具体的になんなのかが示されておらず突っ込み始めたらきりはないのですがそれはしょうがないでしょう。

 

・ラスト

虐殺器官を発見したジョン・ポールがその深層文法に触れ、妻子の死を経験し、自分の愛するアメリカをテロから守るために虐殺を行うようになった。クラヴィスは母とルツィアの死による孤独、仕事で殺してきた人々への贖罪、ジョン・ポールからのメモによりアメリカの虐殺に至った。

前者は愛する世界を守るため虐殺を起こしましたが、後者はどうでしょう?クラヴィスは自分の罪を背負うことにしたと言っているが、ここで言う罪は今まで少年少女など数多くの命を奪ってきた罪と、これからアメリカを混沌に陥れる罪どちらも指している。「他国の人を殺した罰として自国の人を殺します」というオチ。もう完全にめちゃくちゃである。虐殺器官が”正しく”機能した例がジョン・ポールで、間違って自滅の道を歩んでしまったのがクラヴィス

もうこの世界の人類はサーベルタイガーのように滅んでしまわないよう祈るしかありません

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